睡眠用語集
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あ行
アクチグラフィ あくちぐらふぃ actigraphy 加速度センサーを内蔵した携帯型活動量計測・記録装置(actigram)により記録された活動量記録で,睡眠中は覚醒中と比較して活動量が大きく低下するため,睡眠と覚醒を判定することができる.したがって生体リズムの行動指標となる.また睡眠習慣の評価,不眠症・過眠症の評価,不随意運動の評価(該当部に装着),運動療法中の運動量の評価(体幹部に装着)も可能である.  
悪夢 あくむ nightmare 過剰に長く睡眠をとったり睡眠薬やアルコールの適用を中止したりした場合などに,レム睡眠が増加して夢を多くみる傾向があり,夢の内容はともかく,それを悪夢と感じることが多い.その頻度は小児に多く,成長に伴い減少する.睡眠薬や抗うつ薬などの薬物,心的外傷後ストレス障害(PTSD)が原因となることがある.若年者ではナルコレプシー,初老期以降の高齢者では,レム睡眠行動障害の症状であることがある.  
シヌクレイン脳症 あるふぁしぬくれいんのうしょう alpha-synucleinopathy αシヌクレインが脳内に蓄積する疾患で,パーキンソン病,レビー小体型認知症,多系統萎縮症などがある.これらの疾患は,続発性レム睡眠行動障害の原因にもなるが,特発性レム睡眠行動障害の長期観察中に発症することも知られている. 関連語→レム睡眠行動障害
位相反応 いそうはんのう phase response 睡眠学における位相反応とは,概日リズム周期の生体リズムと地球の自転による24時間の昼夜変化のずれを毎日同調させる方法をいう.同調の方法には,時間を刻む速さを変化させる方法(パラメトリック同調)と位相を直接移動させる方法(ノンパラメトリック同調)があり,ともに光刺激によって調整されている.位相反応は光刺激を受けた位相によって,位相変化の方向(前進するか後退するか)や大きさが変化する.その変化具合を示したものが,光刺激を受ける位相(相対的な時刻)を横軸に,位相反応の方向と大きさを縦軸にプロットした位相反応曲線(phase response curve:PRC)である.ヒトのPRCでは深部体温最低位相の前後で,位相反応の方向が変わること(crossover point)が知られている.  
いびき症 いびきしょう snoring disease いびきは,上気道の狭窄によって生じる軟部組織の振動であり,かならず呼吸努力の増加を伴う異常な呼吸となるため,健全ないびきは存在しない.いびきを症状とする疾患の総称を,歯科や耳鼻咽喉科ではいびき症といい,内科や精神科では睡眠呼吸障害ということが多いが,両者は完全には同義ではない.いびき症(睡眠呼吸障害)は単純いびき症,上気道抵抗症候群,閉塞性睡眠時無呼吸症候群に分類される. 関連語→睡眠呼吸障害
エップワース眠気尺度 えっぷわーすすいみんしゃくど Epworth Sleepiness Scale:ESS 日常生活で経験する眠気について,読書やテレビを見るといった具体的な状況設定を行って,眠気の評価を行う自記式尺度である.8つの質問項目から構成され,各得点(0〜3点)を単純加算し,総合得点(0〜24点)を算出する.11点以上が異常な眠気があると診断し,16点以上では居眠り運転事故の危険性があるとされている.しかし眠気の客観的評価である睡眠潜時反復測定検査(MSLT)とは,相関が認められていない. 関連語→睡眠潜時反復測定検査
OSAS おーえすえーえす obstructive sleep apnea syndrome    
オトガイ舌筋前方位移動術 おとがいぜっきんぜんぽういどうじゅつ limited anterior sagittal mandibular osteotomy with genioglossus advancement 睡眠呼吸障害の第三世代の治療の手術法で,下顎骨結合部(オトガイ)に矢状方向骨を切離して前方に移動させ,オトガイ舌筋を前方に牽引する.これに,舌骨吊り上げ術を併用することがある.オトガイ舌筋や舌骨を前方に移動させることにより,舌根部の気道を拡大させることができるが,上下顎前方移動術に比べ移動距離が少ないため効果が弱い. 関連語→上下顎前方移動術
オンディーヌの呪い おんでぃーぬののろい Ondine’s curse オンディーヌという魔女を裏切ったハンスは,意識をしない限り呼吸ができなくなるという魔法をかけられたという物語に由来する.覚醒時に呼吸は継続するが眠ると停止してしまうという病態は,呼吸中枢の障害,呼吸の化学調節(化学受容体反射)によるフィードバックが作動しなくなって睡眠時に中枢型無呼吸が発生するために生じる. 関連語→中枢型無呼吸
か行
概日リズム がいにちりずむ circadian rhythm 体内時計の刻むリズムのことをいう.隔離環境では約25時間の周期である.1日24時間周期の昼夜のリズムとはズレが生じるが,さまざまな刺激(同調因子)によって毎日このリズムを修正している.同調因子には,食事や運動,仕事や学校などの社会的因子があるが,最も強いのは光刺激である. 関連語→概日リズム睡眠障害
概日リズム睡眠障害 がいにちりずむすいみんしょうがい circadian rhythm sleep disoder 1日のなかで社会的に要求される時間帯やみずから望む時間帯に眠れず,不都合な時間帯に眠気がおそってくるような睡眠障害をいう.体内時計を昼夜24時間の環境に合わせることができない場合と,体内時計の機能は正常に働いているが社会的要請から体内時計のリズムとは異なった時間帯に睡眠をとろうとする場合に生じる.前者には,睡眠相後退症候群,睡眠相前進症候群,非24時間睡眠覚醒症候群が相当し,後者には,交代勤務や時差症候群による睡眠障害が相当する.  
覚醒維持力検査 かくせいいじりょくけんさ maintenance of wakefulness test:MWT いかに長く覚醒を維持できるかを調べるため,眠気を誘う状況下において規定された検査時間の時間内で,覚醒を維持する能力を客観的に測定する方法である.1982年に開発,1997年に標準化され,2005年には米国睡眠医学会(AASM)によって実際に手順が報告された.MWTにおける平均入眠潜時(mean sleep latency:MSL)は,検査時刻や検査時間によって変化するため,検査時間によって基準値が異なる.ちなみに20分法ではMSL(平均±SD)は18.7±2.6分,40分法では35.2±7.9分とかなりの差を認める.MSLの天井効果を考えて,40分法が推奨されている. 関連語→睡眠潜時反復測定検査
金縛り かなしばり old hag syndrome    
過眠症 かみんしょう hypersomnia 病的に昼間の眠気が強い疾患で,睡眠覚醒機構に問題がある場合(一次性過眠症)と,睡眠中に起こる異常な事象(睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害など)によって,知らないうちに頻回に中途覚醒が起こっており,これによって睡眠の質が悪くなる結果として過眠を生じる場合(二次性過眠症)に分類される.一次性過眠症ではナルコレプシーが,二次性過眠症では睡眠呼吸障害が有名である.  
顔面軸 がんめんじく facial axis セファログラム上で,正円孔の翼口蓋窩後壁への開口部の下縁に位置するPt点(pterygoid point)と,顔面平面(facial plane)と下顎下縁平面(mandibular plane)との交点であるGn点(gnathion)とを結ぶ線である.この方向は下顎の成長方向を示すため,Rickettsによると生涯変わらないという.この顔面軸と,鼻前頭縫合の正中矢状面における最前方位のN点(nasion)と,大後頭孔前縁における正中矢状面上の最下位のBa点(basion)を結ぶ線との交差角を顔面軸角とよぶ.顔面軸角(facial axis angle)は睡眠呼吸障害の重症度と相関する独立した危険因子であるため、睡眠歯科学では重要なパラメータである.日本人の平均値は86±3°に対し米国人の平均値は90±3.5°である.この顔面軸角の差は,日本人の方が米国人よりも下顎が後退していることを示しており,その結果として日本人のほうが米国人よりも少ない体重増で睡眠呼吸障害を発病してしまう根拠となっている.  
筋脱力のないレム睡眠 きんだつりょくのないれむすいみん REM sleep without atonia:RWA レム睡眠中の骨格筋の抑制機構が働かなくなり,筋が脱力しない状態をいう.PSGで持続性RWAがエポックの50%以上を占める場合,または相同性RWAがエポックの10分割中5個以上を占める場合を判定し,レム睡眠行動障害の診断根拠とする. 関連語→レム睡眠行動障害
K複合体 けーふくごうたい K complex 睡眠脳波の所見で,陰陽二相波で頂点間に振幅が200μV以上,持続0.5秒以上で,C▼3▼やC▼4▼の中心・頭頂部優位に出現する.睡眠紡錘波(sleep spindle)と並んで,睡眠段階2(stage N2)の特徴脳波である.この出現に伴って,一過性の血圧や心拍の上昇を認める.また睡眠関連ブラキシズム(SRB)に先行して現れることも知られている. 関連語→睡眠紡錘波,睡眠段階
原発性いびき げんぱつせいいびき primary snoring いびき症3病態のうちの一つである.無呼吸や低呼吸などの呼吸障害も,中途覚醒による覚醒障害も認められない最も軽症な病態で,有病率は30〜40%である.  
原発性不眠症 げんぱつせいふみんしょう primary insomnia 精神生理性不眠症とか神経症性不眠症ともいわれ,臨床現場では最も高頻度にみられる不眠症である.不眠の型は入眠障害が多いが,他に中途覚醒や早朝覚醒や熟眠障害という型の不眠も認められる.このような不眠の症状に加え,日中の眠気,集中力低下などの精神運動機能の障害も生じる.なかには正常な睡眠がとれているにもかかわらず,自己の主観的評価で強い不眠感を訴える不眠(睡眠状態誤認),不規則な就床・起床時刻や長すぎる日中の仮眠,入眠前のカフェイン摂取,多量飲酒,運動量不足など不適切な睡眠習慣による不眠,うつ病,躁病,統合失調症,神経症,痴呆症などの精神疾患による不眠もあるので,このような不眠との鑑別が必要である.  
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 こうがいすいなんこうがいいんとうけいせいじゅつ uvulopalatopharyngoplasty:UPPP 池松武之亮医博が開発したいびきの手術をもとに,S.Fujitaが1981年に睡眠時無呼吸症候群の治療に応用し,以後Fujita法として広がった手術法である.この方法は口蓋扁桃の摘出も含むことが多いため,術創が咽頭に及び,局所麻酔下に行うことはほぼ不可能である.睡眠呼吸障害の治療としては,第二世代(軟部組織の減量)の手術に分類され,適応は単純いびき症,上気道抵抗症候群,軽症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群である.この手術の術後は,空気の口漏れなどでCPAP治療がしにくくなるため,術後にもCPAPが必要になる可能性がある中等度から重症な閉塞性睡眠時無呼吸症には,適用しないほうが無難である. 関連語→口蓋垂軟口蓋形成術,
睡眠呼吸障害の治療手段
口蓋垂軟口蓋形成術 こうがいすいなんこうがいけいせいじゅつ uvulopalatoplasty いびき症(睡眠呼吸障害)の治療法の一つで,第二世代(軟部組織の減量)の手術に分類される.レーザーメスを用いたものはLAUP(laser assisted uvulopalatoplasty)とよばれ,局所麻酔下で行うことが可能である.適応は単純いびき症,上気道抵抗症候群,軽症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群とされるが,重症な閉塞性睡眠時無呼吸症候群にも,口腔装置と併用して適用することができる.歯科健康保険の適用は,1987年より認められている. 関連語→睡眠呼吸障害の治療
手段,口蓋垂軟口蓋咽頭形成術
口腔装置 こうくうそうち oral appliance いびき症(睡眠呼吸障害)の治療法の一つで,第三世代(骨格の拡大)の非手術療法に分類される.下顎を閉口位でやや前方に固定することによって,口腔咽頭腔を拡大して,上気道狭窄を防ぐ.口腔内に装着するものを口腔内装置(intra-oral appliance),口腔外に装着するものを口腔外装置(extra-oral appliance)と分類することもある.下顎位を変えて口腔咽頭腔を拡大するため,CPAPのように鼻閉のために効果が劣化することはないが,低位舌があると口腔咽頭腔の十分な拡大ができないため効果が減弱する.適応は,単純いびき症,上気道抵抗症候群,閉塞性睡眠時無呼吸症候群にあるが,治療効果は睡眠呼吸障害の重症度よりも,90%圧などの気道開存維持圧に依存する. 関連語→低位舌
恒常性維持機構 こうじょうせいいじきこう homeostatic mechanism 睡眠のメカニズムには,恒常性維持機構と体内時計機構の2つがあり,そのうち恒常性維持機構は目覚めているうちに体内にたまる睡眠物質(睡眠促進物質)によって睡眠が誘発されるメカニズムである.睡眠不足になった場合は,この恒常性維持機構が,深いノンレム睡眠を取り戻すように睡眠の質や量を調節する. 関連語→体内時計機構
高照度光療法 こうしょうどひかりりょうほう phototherapy 2,000〜2,500ルクス以上の高照度光を,1日のうちある時間帯に数十分から数時間程度,患者に照射する治療法である.適応は,季節うつ病,概日リズム睡眠障害,高齢者における睡眠障害である. 関連語→概日リズム睡眠障害
交代勤務関連睡眠障害 こうたいきんむかんれんすいみんしょうがい shift-work sleep disorder 交代勤務者は夜間勤務者と同様に,日中に仮眠をとらなければならなかったり日勤と夜勤を交互に行うことによって,時差症候群と似た状態になりやすい.最終的に現地時刻に同調できる時差症候群と違って,交代勤務者は常に勤務時間帯が変化するため,生体リズムの同調が困難となり,睡眠のタイミングと深部体温,メラトニンのリズムがずれてしまう脱同調に陥ることが多い. 関連語→時差症候群,脱同調
呼吸努力関連覚醒反応 こきゅうどりょくかんれんかくせいはんのう respiratory effort related arousal:RERA 無呼吸や低呼吸の基準を満たさないが,最低10秒以上持続する吸気努力(食道内圧)の増加,あるいは鼻圧センサーの波形の平定化(flow limitation)を伴った呼吸イベントが,睡眠からの覚醒反応を伴った場合に,呼吸努力関連覚醒反応(RERA)と判定する.  
混合型睡眠時無呼吸 こんごうがたすいみんじむこきゅう mixed sleep apnea 睡眠時無呼吸症候群でみられる無呼吸の一形態で,1回の無呼吸が中枢型で始まり,途中から閉塞型に移行するものである.閉塞型無呼吸の亜型と考えられており,閉塞型無呼吸や混合型無呼吸が大半を占める場合,閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断される.しかし近年,中枢型無呼吸に関連するloop gainが過敏な状態(high loop gain)になることによって引き起こされることが注目されている. 関連語→中枢型睡眠時無呼吸,
閉塞型睡眠時無呼吸
さ行
錯乱性覚醒 さくらんせいかくせい confusional arousal 睡眠からの覚醒途中,あるいは覚醒後の著明な精神的な混乱である.睡眠時遊行症や睡眠時驚愕症でも同様の症状がみられることがあるが,錯乱性覚醒は徘徊や恐怖は伴わないので,錯乱性覚醒が単独でみられる場合のみ診断される. 関連語→睡眠時遊行症,
睡眠時驚愕症
酸素飽和度低下指数 さんそほうわどていかしすう oxygen desaturation index:ODI パルスオキシメータによって計測される経皮的動脈血酸素飽和度(SpO▼2▼)は,無呼吸・低呼吸の繰り返しに対応して周期的に変動する.ODIはSpO▼2▼がある閾値%以上低下する回数を検査時間で除して得られる値である.その閾値としては,AASM 2007年の判定マニュアルの推奨基準では4%,代替基準では3%,米国循環器学会の研究事業であるSleep Heart Health Study(SHHS)では4%を用いる.AASM 1999年の判定マニュアルによるAHIとは3%閾値が相関し,AASM 2007年の判定マニュアルの推奨基準やSHHSの基準には4%閾値が相関している.低酸素血症の評価には,同じくパルスオキシメータを用いたSpO▼2▼90%未満の時間比(cumulative percentage time spent at SpO▼2▼ below 90%:CT90%)が用いられる.  
CT90% しーてぃー90ぱーせんと cumulative percentage time spent at SpO▼2▼ below 90% 睡眠中の低酸素状態をSpO▼2▼が90%未満となった時間を評価する指標で,欧米よりも本邦で好まれて用いられている.測定値は,使用するパルスオキシメータの移動平均時間(通常は5秒)の影響を受ける.時間比(%)で示す場合は,分母が総記録時間(TRT)か睡眠時間(SPT)か総睡眠時間(TST)かを明記する. 関連語→酸素飽和度低下指数
CPAP補完治療 しーぱっぷほかんちりょう complementary therapy of CPAP 睡眠呼吸障害の第二世代(過剰軟部組織の減量)の治療法である.CPAP治療(持続陽圧呼吸治療)に,第三世代(骨格の拡大)の治療法の口腔装置を併用する比較的新しい治療手段である.重症な睡眠時無呼吸症候群にCPAP治療を先行導入し,引き続き口腔装置を併用導入して,徐々に口腔装置治療に完全移行をはかる.これにより重症な睡眠時無呼吸症候群にも,口腔装置を適用することができるため,患者の経済的負担を大幅に軽減できる.口腔装置の併用には同時併用と交代併用とがあり,前者は最重症あるいは鼻閉の強い睡眠時無呼吸症候群に対し少しでも治療の効果を上げるために用い,後者は通常の併用療法で口腔装置への移行期に用いる. 関連語→睡眠呼吸障害の治療
手段,CPAP治療
時間生物学 じかんせいぶつがく chronobiology 生物の生体リズム(体内時計)と,それから派生する生体の代謝変化などのリズムについて研究する学問である.わが国では,生物リズム研究会と臨床時間生物学研究会が合併した日本時間生物学会(Japanese Society for Chronobiology)が1995年に発足し,この分野の研究を活発に行っている.  
時差症候群 じさしょうこうぐん desynchronization syndrome 時差がある地域にジェット機などを使って短時間で移動すると,体内時計は現地の明暗周期に対応して,生体リズムを前進あるいは後退させる(再同調)必要があるが,1日あたりの同調能力の限界があるため,完全に現地時刻に再同調するには数日から数週間を要する.この再同調中に,不眠,日中の眠気,身体の不調症状が生じることをいう. 関連語→時差ぼけ
時差ぼけ じさぼけ jet lag 4〜5時間以上の時差がある距離をジェット機で移動した場合に,体内時計がまだ日本の時間のままなのに,現地の生活時間に合わさなければならなくなるため,体内時計と現地時間の間に脱同調を生じ,そのために不眠や日中の眠気などの身体の不調和状態が一時的に出現する現象をいう. 関連語→時差症候群
周期性四肢運動障害 しゅうきせいししうんどうしょうがい periodic limb movement disorder:PLMD 夜間睡眠中に,片側あるいは両側の足関節の背屈運動を主体とする周期的な不随意運動(周期性四肢運動periodic limb movements:PLMs)が反復して起こるため睡眠障害を生じる睡眠関連運動障害の1疾患である.不快な感覚を主体とするむずむず脚症候群とは異なる.PLMsは浅いノンレム睡眠に多く,深いノンレム睡眠や覚醒時には少ない.レム睡眠ではほとんどみられず,もし観察されたらレム睡眠行動障害を疑う.睡眠ポリグラフでは周期性四肢運動障害指数(PLM index:1時間あたりのPLMの回数)が5以上で診断する. 関連語→むずむず脚症候群,
レム睡眠行動障害
熟眠障害 じゅくみんしょうがい lack of refreshment from sleep 睡眠時間は十分であるにもかかわらず,深く眠った感覚が得られない状態をいう.入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒といった不眠症の臨床症状の一つである.健康者の場合は熟眠感が深いノンレム睡眠の量と相関するが,不眠症では客観的な睡眠内容に大きな問題がないにもかかわらず,熟眠障害を訴える場合がある.  
上下顎前方移動術 じょうかがくぜんぽういどうじゅつ maxillomandibular advancement 上顎はLeFortⅠ骨切り術,下顎は下顎枝矢状分割術(SSRO)によって,上下顎を前方に移動させて口腔咽頭気道を拡大させる手術法である.睡眠呼吸障害の第三世代(骨格の拡大)の治療法で,代表的な手術療法である.両側顎関節が正常であることが適応の条件で,関節リウマチなど顎関節の破壊性病変に起因する下顎後退には,人工顎関節全置換術(TMJ implant)を選択すべきである.上下顎を一期的に移動させる術式が一般であるが,小児などの顔面奇形が著しい場合は仮骨延長法を用いることもある.上顎部での骨癒合不全,進行性下顎頭吸収,早期後戻り,オトガイ神経麻痺などの合併症がある. 関連語→人工顎関節置換術
上気道抵抗症候群 じょうきどうていこうしょうこうぐん upper airway resistance syndrome:UARS いびき症(睡眠呼吸障害)の一病態で,いびきに伴う呼吸努力の亢進によって覚醒反応が生じて睡眠が分断し,日中の眠気の原因となる.睡眠ポリグラフ検査では,無呼吸や低呼吸,動脈血の酸素飽和度の低下は出現しないが,食道内圧の変化を測定することによって,呼吸努力の亢進(呼吸努力関連覚醒反応)を知ることができる.無呼吸・低呼吸,異常な四肢の運動がみられないにもかかわらず,覚醒指数が10回以上ならば診断する. 関連語→呼吸努力関連覚醒反応
床上時間 しょうじょうじかん time in bed 就床から起床まで寝床の上で過ごす時間である.不眠症では少しでも長く眠ろうと長時間寝床のなかで過ごすことが多く,これが浅眠感や中途覚醒の原因となるため,症状時間を短縮する睡眠制限療法が必要なことがある. 関連語→睡眠制限療法
情動脱力発作 じょうどうだつりょくほっさ cataplexy 睡眠発作とともにナルコレプシーの大きな特徴の一つで,強い情動によって突然筋緊張の低下ないしは消失が引き起こされる現象である.情動のなかで笑いが最もこの発作を引き起こしやすいが,驚愕や怒りなどでも起こる.全身の筋緊張の低下が起こるため,自覚する症状としては,全身の力が抜けて座り込んでしまうというものが典型である.しかし部分的に緊張の低下が起こる場合もあるので,まぶたが落ちる,顎がだらんと落ちる,頭が落ちる,腕の力が抜ける,膝ががくんとするとかを訴えることもある.睡眠発作,情動脱力発作,睡眠麻痺,入眠時幻覚はナルコレプシーの4徴であるが,睡眠発作と情動脱力発作の2症状がそろえば臨床的にナルコレプシーと診断できる. 関連語→ナルコレプシー,
睡眠発作
情動脱落発作 じょうどうだつりょくほっさ cataplexy 睡眠発作とともにナルコレプシーの大きな特徴の一つで,強い情動によって突然筋緊張の低下ないしは消失が引き起こされる現象である.情動のなかで笑いが最もこの発作を引き起こしやすいが,驚愕や怒りなどでも起こる.全身の筋緊張の低下が起こるため,自覚する症状としては,全身の力が抜けて座り込んでしまうというものが典型である.しかし部分的に緊張の低下が起こる場合もあるので,まぶたが落ちる,顎がだらんとする,頭が落ちる,腕の力が抜ける,膝ががくんとするとかを訴えることもある.睡眠発作,情動脱力発作,睡眠麻痺,入眠時幻覚をナルコレプシーの4徴というが,睡眠発作と情動脱力発作の2症状がそろえば,臨床的にナルコレプシーと診断できる.  
食道内圧 しょくどうないあつ esophageal pressure:Pes 経鼻的に食道にカテーテルを挿入して測定する内圧である.測定には,バルーン付きカテーテルを用いる方法,カテーテルの先端にマイクロトランスデューサーを装着した方法,カテーテルを生理食塩液で満たし外部の圧トランスデューサ-で測定する方法(infusion catheter法)がある.食道内圧を測定することによって呼吸努力を観察できるため,上気道抵抗症候群の診断には有効である.Pesと略すことがある. 関連語→上気道抵抗症候群,
呼吸努力関連覚醒反応
神経症性不眠 しんけいしょうせいふみん neurotic insomnia    
人工顎関節置換術 じんこうがくかんせつちかんじゅつ TMJ implant 関節リウマチのように,両側性の破壊性顎関節疾患によって生じた睡眠呼吸障害の治療法として開発された手術法である.人工顎関節には,岡山大学と新潟大学で開発されたものを使用する.ともに,チタン製の関節頭と高分子ポリエチレン製の関節窩で構成されている.睡眠呼吸障害の治療では,第三世代(骨格の拡大)の手術療法に分類されている.  
深睡眠 しんすいみん slow wave sleep,deep sleep 睡眠脳波所見でstage 3からstage 4(Rechtschaffen & Kales診断基準),またはstage N3(AASM2007年診断基準)に判定される睡眠状態をいい,熟眠状態を示す.波形から徐波睡眠ともよばれる.多少の物音では目覚めず,瞳孔が散大しているため無理に起こされるとまぶしく感じる.この睡眠の目的はおもに脳を休めることで,高等な動物ほど深睡眠が多く,これによって限られた時間内に,効率よく脳を休ませ回復させることが可能となった.  
深部体温 しんぶたいおん core body temperature 外界の影響を受けにくい身体の内部の体温である.直腸内,膣内,消化管内(研究段階),口腔内で測定できる.この体温が視交叉上核における概日リズムをよく反映することから,睡眠学の分野では生体リズムの測定に用いられている.視交叉上核の解剖学的位置からして,最も脳内の体温と近い口内温が,指標としては優れている.ヒトの深部体温は,概日リズムに沿って1日におよそ1℃の振幅で上下する.概日リズムを示す指標はいくつかあるが,視交叉上核における概日リズムを最もよく反映するのは,深部体温とメラトニン分泌量である.これらを連続的に測定することで,視交叉上核が刻む体内時計を実際に観察でき,生体リズムの生理指標になる.深部体温の測定は,直腸内あるいは膣内に挿入した温度プローブや,口腔内に設置した温度ロガーを用いる.深部体温の変化は,主観的明け方(健康者では午前4時位)に最低温度(nadir)となるので,この時刻を生体リズムの指標として用いて位相のずれを判定する.外界の影響は受けないといっても,入浴や食事や運動の影響は受けるので,判定の際には注意が必要である.  
睡眠学 すいみんがく somnology 睡眠学は,単に「睡眠医学」の領域のみならず社会経済問題からみた「睡眠社会学」,および睡眠の役割やメカニズムを研究する「睡眠科学」,の3つをまとめた新しい学問体系である.わが国では1973年に発足した日本睡眠学会(Japanese Society of Sleep Research)が研究の中心となっている.2003年から国際誌“Sleep and Biological Rhythm”も発刊している.睡眠歯科学(dental sleep medicine)は睡眠学のなかの睡眠医歯薬学分野に属し,いびき症(睡眠呼吸障害),睡眠時無呼吸症候群,睡眠関連ブラキシズム,レム睡眠行動障害,といった睡眠障害国際分類(ICSD)にある睡眠障害のほか,口腔乾燥症などの歯科疾患に起因したに伴う睡眠障害,さらに誤嚥性肺炎につながる睡眠中の誤吸引(aspiration)についても研究対象としている.  
睡眠覚醒リズム すいみんかくせいりずむ sleep-wake rhythm 夜に安らかな睡眠をもたらすとともに,昼にはしっかりと覚醒して活動しやすい状態をつくりだすため,睡眠と覚醒は恒常性維持機構と体内時計機構というメカニズムによって制御される.この2つのメカニズムが密接に相互作用をもちながら,睡眠と覚醒のリズムをつくりだしている. 関連語→恒常性維持機構,
体内時計機構
睡眠関連運動障害 すいみんかんれんうんどうしょうがい sleep related movement disorder 睡眠障害国際分類の第2版(ICSD-Ⅱ,2005)ではむずむず脚症候群(restless legs syndrome),周期性四肢運動障害(periodic limb movement disorder),睡眠関連下肢こむらがえり(sleep related leg cramps),睡眠関連歯ぎしり(sleep related bruxism),睡眠関連律動性運動障害(sleep related rhythmic movement disorder)などが含まれる.睡眠関連ブラキシズムは,睡眠障害国際分類の第1版(ICSD-Ⅰ,1990)では睡眠随伴症(parasomnia)に分類されていたが,この改訂から睡眠関連下肢こむらがえりや睡眠関連律動性運動障害とともに睡眠関連運動障害に分類された. 関連語→睡眠関連ブラキシズム
睡眠関連ブラキシズム すいみんかんれんぶらきしずむ sleep related bruxism:SRB 睡眠中に,覚醒反応を伴って歯をぎしぎしこすりつけたり,食いしばったりする,すなわち持続的な筋収縮(clenching)や反復性(相動性)の筋収縮(grinding)を特徴とする異常な顎運動である.これにより歯痛,歯の咬耗や破折,歯科補綴装置・修復物の破損や脱落,顎関節症,口腔顔面痛,咬合性外傷など,さまざまな歯科的問題を引き起こす.これによる微小覚醒(micro-arousal)が睡眠を分断することによって,未治療の睡眠時無呼吸症候群を凌駕する睡眠障害の原因となる.診断はAASM(米国睡眠学会)の2007年PSG診断マニュアルに則って行い、その所見に基づいて細分類を行う. 関連語→睡眠関連ブラキシズムの診断,睡眠関連ブラキシズムの分類
睡眠関連ブラキシズムの診断 すいみんかんれんぶらきしずむのしんだん scoring of sleep related bruxism 米国睡眠医学会(AASM)では,2007年の判定マニュアルから筋電図電極の位置を従来の頤から顎下に切り替え,それを用いた診断基準が提言されている.それによると,顎下筋電図活動が少なくとも背景の2倍以上の振幅となり,持続時間0.25〜2秒が3回以上連続した反復性(phasic)睡眠ブラキシズム運動と持続時間が2秒以上の持続性(tonic)睡眠ブラキシズム運動を観察し,ICDS-IIに従い 1時間当たりの睡眠ブラキシズム運動数(睡眠ブラキシズム指数)が4回/時以上でSRBと診断する. 関連語→律動性咀嚼筋活動
睡眠関連ブラキシズムの分類 すいみんかんれんぶらきしずむのぶんるい classification of sleep related bruxism 睡眠関連ブラキシズム(SRB)は,大きく単独SRBと関連疾患に伴うSRBに分けられる.前者は,特発性と続発性(薬物性,脳血管障害性,咬合性,その他)に細分類される.後者は,睡眠随伴症(レム睡眠行動障害,カタスレニア),睡眠関連運動障害(睡眠時(むずむず脚症候群,周期性四肢運動障害,こむらがえり),覚醒時出現(パーキンソン病,舞踏病,トゥレット症候群),高次脳機能障害(自閉症,ADHD),精神・心理性,その他の疾患(睡眠呼吸障害,COPD,脳性麻痺,てんかん,ダウン症,アンジェルマン症候群,レット症候群,妊娠・閉経に伴う)に細分類される.これだけ多様な病態を診断するには,睡眠ポリグラフ検査が必須である. 関連語→睡眠ポリグラフ検査,
睡眠ポリグラフの解析
睡眠経過図 すいみんけいかず sleep histogram,hypnogram 睡眠構築やさまざまな事象との時間的関連を図示した度数グラフである.通常は縦軸に覚醒,レム,ノンレムの順に睡眠深度を示し,横軸には就床から起床までの時間経過を示す.睡眠全体を総覧的に評価し,睡眠段階の変化から睡眠の分断を知ることができる.  
睡眠効率 すいみんこうりつ sleep efficiency 入眠してから覚醒するまでの間に,実際に睡眠していた時間の割合を示す睡眠変数である.正確には,睡眠ポリグラフ(PSG)にて全睡眠時間(total sleep time:TST)を測定し,それと総就床時間(time in bed:TIB)との比率を算出して求めるのだが、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)のように,実睡眠時間を,就床時刻と起床時刻との差(床内時間)と比較して簡易的に求めることもできる.その場合,アクチグラフィのような加速度センサーを装着して,実睡眠時間を測定すると,より正確な値が得られる. 関連語→睡眠ポリグラフ検査
睡眠呼吸障害 すいみんこきゅうしょうがい sleep related breathing disorder:SBD 睡眠呼吸障害とは,睡眠に関連して生じる呼吸障害の総称である.睡眠障害国際分類第2版(ICSD-Ⅱ)では,睡眠関連呼吸障害群としてまとめられており,中枢性睡眠時無呼吸症候群6細分類,閉塞性睡眠時無呼吸症候群2細分類,睡眠関連低換気/低酸素症候群2細分類,身体疾患による形態睡眠関連低換気/低酸素症候群3細分類,その他1細分類と整理されている.歯科や耳鼻咽喉科領域で使われるいびき症という病名はこの睡眠関連呼吸障害群と完全に同義ではなく,このうちから純粋な中枢性障害を除いたものである. 関連語→いびき症
睡眠呼吸障害の治療原理 すいみんこきゅうしょうがいのちりょうげんり principle of treatment for sleep related breathing disorder 睡眠呼吸障害の原因が解明されるにしたがって新しい治療法が開発され,世代別に分類されている.第一世代は,上気道に生じる気道狭窄や閉塞の原因がほとんど解明されていない時代で,疑わしい部分をバイパスさせる方法が,第二世代は,軟口蓋や舌など口腔咽頭の軟部組織の過剰が原因とわかり,その軟部組織を減量する方法,そして第三世代は,過剰軟部組織を取り囲む骨格の大小が原因とわかり,それを拡大する方法が考えられた.その結果,3段階の世代分類と,手術治療か非手術治療かの2分類が加わって,合計6分類の治療法が開発されている. 関連語→睡眠呼吸障害,
睡眠呼吸障害の治療手段
睡眠呼吸障害の治療手段 すいみんこきゅうしょうがいのちりょうしゅだん treatment modalities for sleep related breathing disorder 睡眠呼吸障害は,治療原理に基づく3段階の世代分類と,手術か非手術かの2つの分類によって,治療手段が6分類されている.第一世代(気道のバイパス)の手術は,気管切開術,非手術治療はnasal airway,第二世代(過剰軟部組織の減量)の手術は,軟口蓋形成術(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術など),非手術治療は持続陽圧呼吸治療(CPAP),第三世代(骨格の拡大)の治療は,手術では上下顎前方移動術(MMA)や人工顎関節置換術(TMJ implant),非手術治療では口腔装置(oral appliance)が開発されている.このほかにも,体重の減量や禁煙などの生活習慣の改善も有効である.これらの治療手段は,単独ではなく併用にて複合的に行うこともあり,また病態に応じて,必要かつ十分な効果を得られるよう変更させる必要がある. 関連語→睡眠呼吸障害の治療原理
睡眠時間 すいみんじかん sleep period time:SPT 睡眠ポリグラフ検査(PSG)での睡眠変数の一つで,入眠から最終覚醒までの時間を示す.中途覚醒時間(WASO)を含まない総睡眠時間(TST)とは異なる.各睡眠段階出現率はSPTを基準(分母)に算出することが多い。 関連語→総睡眠時間
睡眠時驚愕症 すいみんじきょうがくしょう sleep terror 睡眠中に突然の叫び声をあげ,目を見開き,恐怖におののき,大量の汗をかき,呼吸も荒くなる疾患である.恐怖から逃れようと寝床から逃げ出すこともあり,覚醒した場合は錯乱状態となって動悸や息苦しさを訴えることもある.深いノンレム睡眠から,直接覚醒することによって起こることが多いため,深いノンレム睡眠の出やすい時間帯に生じやすい.てんかん,錯乱性覚醒,悪夢,レム睡眠行動障害,睡眠時無呼吸症候群との鑑別が必要である.小児では遺伝,発達,心理的な原因が考えられ,成人でも不安感が強いと起こりやすい.  
睡眠時低呼吸 すいみんじていこきゅう sleep hypopnea 米国睡眠医学会(AASM)の2007年の判定マニュアルでは,睡眠時低呼吸の判定に,推奨のものと代替のものの2種類の基準がある.推奨される判定基準(A基準)は,鼻圧センサーの振幅が基準の30%以上の低下,時間が最低10秒以上,酸素飽和度が4%以上低下,イベント中の最低90%以上は低呼吸の基準を満たす.代替とされる判定基準(B基準)は,鼻圧センサーの振幅が基準の50%以上低下,低下の時間が最低10秒以上,酸素飽和度が3%以上の低下あるいは(微小)覚醒を伴う.イベント中の最低90%以上は低呼吸の基準を満たす,とされている.この1時間あたりの指数と睡眠時無呼吸指数を合算すると,睡眠呼吸障害の重症度を測る無呼吸低呼吸指数(apnea-hypopnea index:AHI)になる.B基準はA基準に比べて過大診断となる傾向があるが,さらに過大診断となるver.2基準も近年提案されている.  
睡眠時無呼吸 すいみんじむこきゅう sleep apnea 睡眠中に起こる10秒以上の呼吸停止をいう.呼吸中枢などに原因する中枢型無呼吸と,上気道などに原因する閉塞型無呼吸がある.また中枢型無呼吸で始まり,その後に閉塞型無呼吸に変わる混合型無呼吸は,臨床的には閉塞型無呼吸に分類する. 関連語→睡眠時低呼吸
睡眠時無呼吸症候群 すいみんじむこきゅうしょうこうぐん sleep apnea syndrome:SAS 睡眠時無呼吸症候群は,中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)と,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)とに分類され,その大部分は後者である.OSASは換気が停止している間も,胸部と腹部の呼吸が持続する閉塞型無呼吸(OSA),中枢型から始まり閉塞型無呼吸に移行する混合型無呼吸(MSA)が,主たる呼吸障害である.CSASは,中枢型無呼吸(CSA)を主体とする呼吸障害である.両者ともに,睡眠の分断と動脈血酸素飽和度の低下を認め,それによる中途覚醒や日中の眠気を生じる.特にOSASは,高血圧,不整脈,虚血性心疾患,心臓突然死などの心循環系の合併症を生じやすい.睡眠障害国際分類第二版(ICSD-Ⅱ)によると閉塞性睡眠時無呼吸症候群は1時間に5回以上の呼吸イベント(無呼吸、低呼吸、呼吸努力関連覚醒(RERA))が出現するものと定義されているが、小児患者や中枢性睡眠時無呼吸症候群では定義が異なる. 関連語→閉塞性睡眠時無呼吸症候群,中枢性睡眠時無呼吸症候群
睡眠時遊行症 すいみんじゆうこうしょう sleepwalking,somnambulism 睡眠時随伴症の一つで,ノンレム睡眠からの覚醒に伴い,意識状態が変容して判断力が低下した状態で歩き回る(徘徊)といった異常行動,起き上がって寝床の上に座る,放尿など半ば目的のある行動をする,取り乱して逃げまどう、などという多様な臨床像を示す.このような不適切な行動は,暴力,車の運転,未必の殺人,疑似自殺,夢遊摂食,性倒錯的行為,異常性行為にも及ぶ.小児では窓やドアに向かって歩くこともあり危険である.睡眠時驚愕症やレム睡眠行動障害といった,他の睡眠関連随伴症を伴うこともある. 関連語→睡眠時随伴症
睡眠障害国際分類 すいみんしょうがいこくさいぶんるい The International Classification of Sleep Disorders:ICSD 米国睡眠医学会(AASM)から1990年に第1版,2005年に第2版が発刊され,ともに日本睡眠学会の診断分類委員会が日本語版を出版している.現在,広く用いられている第二版(ICSD-Ⅱ)は,知られている睡眠障害と覚醒障害のすべてについて,科学的および臨床的論拠に基づく記述し,合理的で科学的に妥当な全体構造のなかから睡眠・覚醒障害を提示し,できる限りICD-9,ICD-10などの過去の分類に対応させるように作成されている.概要は,臨床的にも有用な8つのカテゴリー,①不眠症群,②睡眠関連呼吸障害群,③中枢性過眠症群,④概日リズム睡眠障害群,⑤睡眠時随伴症群,⑥睡眠関連運動障害群,⑦孤発性の諸症状,正常範囲と思われる異型症状,未解決の諸問題,⑧その他の睡眠障害に分類している.  
睡眠時随伴症 すいみんずいはんしょう parasomnia 眠りに入る間,睡眠中,または睡眠からの覚醒中に起こる不快な身体的異常で,中枢神経活動の賦活が,骨格筋や自律神経系に伝わるために生じることが多い.睡眠障害国際分類第2版(ICSD-Ⅱ)では,覚醒障害には錯乱性覚醒,睡眠時遊行症,睡眠時驚愕症の3細分類,レム睡眠障害にはレム睡眠行動障害,反復孤発性睡眠麻痺,悪夢障害の3細分類,その他の疾患として9細分類されている.睡眠関連運動障害が比較的単純な運動が多いのに対し,睡眠関連随伴症では,複雑で意味のありそうな目標指向性行為が認められることが多い.  
睡眠制限療法 すいみんせいげんりょうほう sleep-restriction therapy 不眠症などの睡眠障害患者は,少しでも長く眠ろうとして長時間寝床のなかで過ごしていることが多い.これがかえって,浅眠感や中途覚醒の原因となっている場合がある.睡眠制限療法は,就床から起床までの寝床の上で過ごす時間(床上時間,床内時間ともいう)を制限して,床上時間と実際の睡眠時間とのギャップを少なくするとともに,軽度の断眠効果を利用して不眠などを改善する. 関連語→不眠症,床上時間
睡眠潜時 すいみんせんじ sleep latency 就寝(通常は消灯)から入眠までの時間のことである.臨床的には,15〜20分以内が正常である.睡眠ポリグラフでは就寝後に初めていずれかの睡眠段階と判断されるエポックまでの時間をいうが,入眠に明確な定義がないため曖昧さが残る.  
睡眠潜時反復測定検査 すいみんせんじはんぷくそくていけんさ multiple sleep latency test:MSLT 睡眠ポリグラフを用いて昼間の眠気を客観的に評価する有用な検査で,覚醒維持力検査(maintenance of wakefullness test:MWT)とともに広く用いられている.1977年に開発,1986年に標準化され,2005年に米国睡眠医学会(AASM)によって実施手順が示された.外界からの覚醒につながる要因を除いたうえで,眠りに就く能力・眠りやすさを客観的に評価している.昼間に睡眠ポリグラフを装着して,およそ2時間間隔で4〜5回の測定を行い,平均入眠潜時(mean sleep latency:MSL)を求める.しかし健康者におけるMSLの標準偏差が大きく,必ずしも健康者と患者群を区別できないといわれる.ナルコレプシー患者のMSLは8分未満で,MSLT中に入眠開始時レム(SOREMp)を2回以上認めることが多いと報告されている. 関連語→覚醒維持力検査
睡眠相後退症候群 すいみんそうこうたいしょうこうぐん delayed sleep phase syndrome:DSPS 生体リズムの遅れにより睡眠時間帯が極端に遅くなる睡眠障害で,概日リズム睡眠障害に分類される.典型例では明け方にならないと眠れず,昼頃にならないと起床できない.かりに早く眠ろうとして就床しても,何時間も眠りにつくことができず,結局ある一定の時刻にならないと入眠できない.重要な仕事や試験など,かならず朝起きなければならない状況においても起床できず,無理して起床しても,過剰な眠気や集中力低下,倦怠感,頭重感などのため仕事や勉学は不可能である(この状態をsocial jet lagという).午後から夕方になると,これらの症状は消失する.睡眠薬による治療は無効で,時間療法や高照度光療法,メラトニン療法が行われる.  
睡眠相時間療法 すいみんそうじかんりょうほう sleep phase chronotherapy 概日リズム睡眠障害に適応される非薬物療法である.リズム位相を遅らせる場合は日に3時間程度,進める場合は日に1時間程度を目安に就床時刻を変化させ,望ましい時刻に就床・起床ができるようになった時点で,就床・起床時刻を固定する. 関連語→概日リズム睡眠障害
睡眠相前進症候群 すいみんそうぜんしんしょうこうぐん advanced sleep phase syndrome:ASPS 入眠と覚醒時刻が,通常の社会生活に適した時間帯よりも前進しているため,夕方早くから眠くなって起きていられなくなり,夜間や早朝に目覚めてしまう睡眠障害である.典型例は,20時以降まで起きていることができず,午前3時には覚醒してしまう.この患者の訴えは,夜起きていられない,早くに目覚めてしまい再入眠できない,などである.日中の学業や仕事の問題は起こらないが,早い時刻から眠気が出現するため夜間の活動が著しく制限され,対人関係や社会生活面で問題が起こることがある.うつ病による早朝覚醒とは,抑うつ気分,意欲の低下,自責,食欲不振などのうつ病の症状がみられないことで鑑別できる.治療には,時間療法と高照度光療法が有効である.  
睡眠段階 すいみんだんかい sleep stage 睡眠の進行度合いを示す睡眠段階は,国際基準(Rechtshaffen & Kales法)では覚醒段階(stage W),睡眠段階1(stage 1),睡眠段階2(stage 2),睡眠段階3(stage 3),睡眠段階4(stage 4),睡眠段階REM(stage REM)に分かれる.また米国睡眠医学会(AASM 2007年)では覚醒段階(stage W),睡眠段階1(stage N1),睡眠段階2(stage N2),睡眠段階3と睡眠段階4を合わせて(stage N3),睡眠段階REM(stage REM)に分かれる.両者とも,その判定には脳波,眼球運動,筋電図の測定を必要とする.健康若年成人では,睡眠時間(SPT)に対しstage Wは5%未満,stage 1は2〜5%,stage 2は45〜55%,stage 3は3〜8%,stage 4は10〜15%,stage REMは20〜25%程度である.睡眠段階移行回数(total number of stage shifts)は,健康若年成人で25〜70回で,睡眠の安定性を示す指標である.  
睡眠日誌 すいみんにっし sleep log 日常の睡眠習慣や生活リズムを把握するために,比較的長期にわたる自己記録法である.睡眠の継時的記録は,睡眠障害の診断に役立つとともに,本人が自分の睡眠状態を自身で継時的に記録するので,認知療法としての効果もある.睡眠日誌に必要な事項は,毎日の起床時刻と就床時刻,睡眠時間,中途覚醒,熟眠感,服薬の有無,食事時間,ナルコレプシー患者では,睡眠発作,情動脱力発作,入眠時幻覚,睡眠麻痺の発現時刻などである.  
睡眠不足症候群 すいみんぶそくしょうこうぐん insufficient sleep syndrome 正常な覚醒状態を維持するために必要な夜間睡眠を,常にとれない人に起こる睡眠障害である.意図的でないにしても,自発的な断眠という意味が含まれるので,睡眠障害国際分類第2版(ICSD-Ⅱ)では中枢性過眠症群の行動誘発性睡眠不足症候群(behaviorally induced insufficient sleep syndrome)に分類され,行動に誘発されること(自発的に行っている断眠)が明記されている.症状は,睡眠不足による昼間の眠気,注意集中力の低下,意識清明低下,注意散漫などがあり,程度によっては,怒りっぽさや落ち着きのなさ,協調不全,不定愁訴を発現することもある.  
睡眠物質 すいみんぶっしつ sleep substance 生体内に自然に備わる物質のうち,睡眠を誘発したり睡眠の維持にかかわる物質である.プロスタグランジン,サイトカインなど免疫・炎症物質,プロラクチンなどのホルモン,ある種の神経ペプチド,ウリジンなどのヌクレオシド,グルタチオンなど,きわめて多様なものが知られているが,それらが自然の睡眠において,どのような役割をもつものかについては不明な点が多い.  
睡眠紡錘波 すいみんぼうすいは sleep spindle 睡眠脳波の波形が漸増漸減の形(紡状)で,周波数が12〜14(16)Hz,継続時間が2秒以内(0.5〜1.5秒)の波形をいう.背景脳波活動が,比較的低電位のさまざまな周波数が混在した状態(low voltage mixed frequency:LVMF)に睡眠紡錘波とK複合体が散在的に混入した場合,睡眠段階2の開始と判定される.2秒以上続く場合を長時間持続紡錘波(prolonged spindle)といい,そのほか,左右交替性紡錘波(alternate spindle),一側性欠如(spindle lazy phenomenon),過剰紡錘波(extreme spindle)といった異常波形も認められる. 関連語→K複合体
睡眠発作 すいみんほっさ narcoleptic attack 日中に発作的な眠気におそわれて眠ってしまうことをいう.ナルコレプシーの特徴の一つで,前夜の睡眠時間にかかわらずほぼ毎日出現する.入学試験中や商談中など通常なら居眠りすることはないような場面でも眠ってしまうことも,自動車運転中に眠ってしまうこともある.睡眠発作で数分から数十分眠ると,眠気がすっきり取れることも,ナルコレプシーの特徴である.睡眠発作中の睡眠はノンレム睡眠である.  
睡眠ポリグラフ検査 すいみんぽりぐらふけんさ polysomnography:PSG 脳波,眼球運動,頤筋筋電図の記録より睡眠段階を判定し,さらに気流,胸腹壁の呼吸運動,SpO▼2▼,体位,前脛骨筋筋電図,心電図,いびき,食道胸腔内圧,体温,炭酸ガス分圧などの生体信号および映像音声を同時記録し,これらの情報の解析により睡眠の質,睡眠中の呼吸障害,循環状態,パラソムニアなどの有無を評価する検査法である.その解析では睡眠段階,無呼吸や低呼吸などの呼吸イベント,覚醒反応,周期性四肢運動,睡眠関連ブラキシズムなどをスコアリングする.2007年4月にAASMより“The AASM Manual for the Scoring of Sleep and Associated Events”(AASMマニュアル2007)が刊行され,電極装着位置をはじめ新しい判定基準について記述されている.  
睡眠ポリグラフの解析 すいみんぽりぐらふのかいせき scoring of polysomnogram 判定マニュアル(直近はAASM(2007))に従って,①睡眠段階をStage W,Stage N1,Stage N2,Stage N3,Stage REMに分類し,②覚醒反応(arousal)は脳波周波数の突然の変化(θ波・α波などを含むspindle以外の16Hz以上の周波数を含む)を判定,③呼吸イベントは無呼吸(閉塞型,混合型,中枢型および低呼吸(hypopnea)の分類とチェーンストークス呼吸や呼吸努力関連覚醒反応(respiratory effort related arousal:RERA)を判定,④周期性四肢運動(periodic limb movement:PLM)を判定,⑤不整脈を判定,⑥睡眠関連ブラキシズム(bruxism)を判定,⑦てんかん波など脳波異常や睡眠随伴症の有無を判定する.検査第1夜は初めての就床環境のため、通常の睡眠が得られない(第1夜効果(first night effect)または検査質効果(laboratory effect). 関連語→呼吸努力関連覚醒反応,
チェーンストークス呼吸
睡眠麻痺 すいみんまひ sleep paralysis 入眠時に生じる一過性の全身脱力症状で,ある程度意識があるにもかかわらず,患者は身体を動かすことも声を上げて助けを求めることもできない,いわゆる「金縛り」の状態となる.このため強い恐怖を体験することが多い.持続時間は数分以内であり,自然に完全に回復する.この現象はレム睡眠に関連しており,レム睡眠が眼球を動かす筋と呼吸筋以外の脳からの運動指令を脊髄で遮断する現象によって起こると考えられている.睡眠麻痺は,睡眠発作,情動脱力発作,入眠時幻覚と並んでナルコレプシーの4徴とよばれている.  
生体リズム せいたいりずむ biological rhythm ヒトの体内時計は視床下部の視交叉上核にあって,ここで約24時間の生体リズムがつくりだされている.視交叉上核には視神経からの神経線維の入力があり,太陽の1日の周期に基づいてリズムをつくり,脳のさまざまな神経核や内分泌器官に神経線維が連絡して,そのリズムを伝達している.地球上で生活する以上,生体リズムがつくりだす約24時間の周期を,地球の自転周期の24時間に毎日合わせる必要がある.この修正能力は生後3〜4カ月以降に獲得され,生体リズムに支配される深部体温リズムやメラトニンの分泌パターンも確立する.その後,思春期に生体リズムが遅れがちとなるが,加齢とともに前進し,高齢になると睡眠時間帯が早くなって早寝早起きとなる. 関連語→深部体温,メラトニン
総記録時間 そうきろくじかん total recording time:TRT 睡眠検査での記録開始から終了までの時間をいう.脳波で睡眠状態を把握できない簡易睡眠検査では,この時間を基準に呼吸変数などを算出する.脳波を用いた測定では,睡眠時間(SPT)や総睡眠時間(TST)を使用する.  
総睡眠時間 そうすいみんじかん total sleep time:TST 睡眠ポリグラフ上で判定された入眠から最終覚醒時刻までの時間(sleep period time:SPT)のうち,中途覚醒を除いた時間をいう.実睡眠時間であるので,睡眠効率はこれを分子に算出される.  
早朝覚醒 そうちょうかくせい early morning insomnia 本人が望む時刻,あるいは通常の起床時刻の2時間以上前に覚醒してしまい,その後再入眠できない状態をいう.そのうち,早くに目が覚めてしまい熟眠感がないタイプは,内因性うつ病における特徴的な不眠で,熟眠感不足や早朝覚醒後の浅睡眠による不快感を訴えることがある.また夕方から眠くなり早くに目が覚めてしまうタイプは,睡眠相前進症候群の特徴で,高齢者に多く加齢による睡眠変化の一つと考えられる. 関連語→睡眠相前進症候群
た行
体内時計機構 たいないどけいきこう circadian rhythm mechanism 睡眠のメカニズムの一つで,ある時刻になれば眠くなる,といった体内時計が睡眠の起こるタイミングを制御する機構である.恒常性維持機構(Process S)による調節が,時刻と関係なく覚醒していた時間の長さ,すなわち睡眠不足の程度によって規定されているのに対し,この体内時計機構(Process C)による調節は,時刻依存性の調節である.睡眠と覚醒だけでなく,体温・血圧・脈拍といった自律神経系,内分泌ホルモン系,免疫・代謝系などが,体内時計によって1日のリズムを刻み,昼夜や季節の変化に効率よく適応するように調節されている.体内時計の刻むリズムは,隔離環境で約25時間の周期であるが,24時間の昼夜リズムとのずれを,さまざまな同調因子によって修正している.同調因子には,食事や運動,仕事や学校などの社会的因子があるが,最も強い因子は光である. 関連語→恒常性維持機構
多系統萎縮症 たけいとういしゅくしょう multiple system atrophy:MSA 中年期以降に発症し,自律神経のほか,小脳性運動失調,パーキンソン症候群,および錐緩徐進行性の神経変性疾患である.病変は,橋核,青斑核,迷走神経背側核,下オリーブ核,橋延髄呼吸中枢,小脳皮質,黒質,線条体,脊髄,錐体路と広範囲に分布し,αシヌクレイン陽性細胞質内封入体が存在するαシヌクレイン脳症に含まれる.呼吸や自律神経,睡眠中枢が障害されるため,不眠,レム睡眠行動障害,周期性四肢運動障害,睡眠呼吸障害を合併しやすい.馬のいななきのようないびき音で知られるシャイ・ドレーガー症候群もこれに含まれ,声帯の開大麻痺によって睡眠呼吸障害を呈することが知られている. 関連語→αシヌクレイン脳症
多相性睡眠 たそうせいすいみん polyphasic sleep 多くの動物は昼あるいは夜に集中して眠るが,その出現様式は,短いノンレム睡眠とさらに短いレム睡眠,それに続き,いったん覚醒して再度ノンレム睡眠に戻るという睡眠覚醒サイクルを数十回繰り返す睡眠をいう.ヒトのように一度寝ると覚醒しないで朝を迎える睡眠を,単相性睡眠という.動物は睡眠しているときが最も捕食動物に襲われる危険が大きいため,このようなノンレム睡眠-レム睡眠の後に短時間目覚める睡眠,すなわち多相性睡眠を進化させたのであろうと思われる.ヒトも中世では,夕方に第一睡眠をとった後に活動し,朝方になって再び第二睡眠をとっていたという説がある.  
脱同調 だつどうちょう desynchronization 生体リズム(体内時計)の刻むリズムは1日約25時間の周期であるが,地球の自転による昼夜のリズムは1日24時間であるため,地球上の動物は,毎日このずれを修正して外界と体内を同調(entrainment)させている.この同調が成功しないで,外界の時間と体内の時間とにずれが生じてしまうことを脱同調という.高速のジェット機で旅行して外界の時間が大きく変わった場合には,体内のリズムに変化がなくても,外界の時間と体内の時間にずれが生じてしまう.これを外的脱同調(external desynchronization)という.逆に外界の時間に変化がないのに,体内の時間がずれてしまうことを内的脱同調(internal desynchronization)という.内的脱同調状態では時差ボケと同様に,夜間の不眠や昼間の眠気,全身倦怠感,食欲不振,集中力の低下を引き起こし,作業能率も低下する.  
単純いびき症 たんじゅんいびきしょう simple snoring    
チェーンストークス呼吸 ちぇーんすとーくすこきゅう Cheyne-Stokes respiration 反復性の無呼吸,低呼吸,または無呼吸と低呼吸が過呼吸と交互に生じる呼吸パターンである.過呼吸の時間は長く,そのなかで1回換気量は徐々に漸増漸減(crescendo-decrescendo)する.一般に覚醒からノンレム睡眠への移行時,またはノンレム睡眠中に呼吸調節系が不安定になるため発生する.過呼吸は肺迷走神経刺激受容器が肺うっ血によって刺激を受けるか,末梢や中枢の化学受容器反射が亢進するかによって引き起こされ,中枢型の無呼吸はその過換気によって生じる.比較的ゆっくりの換気量の漸増漸減の長さは,肺から化学受容器への循環時間に正比例し,心拍出量に反比例する.これがうっ血性心不全患者に,チェーンストークス呼吸が認められる理由となる.  
中枢型無呼吸 ちゅうすうがたむこきゅう cental sleep apnea 中枢型無呼吸には,換気努力が伴わない無呼吸により呼吸停止が起こり,それを繰り返す原因不明の原発性の無呼吸と,反復性の無呼吸,低呼吸,または無呼吸と低呼吸が過呼吸と交互に返す無呼吸がある(チェーンストークス呼吸パターン).後者は換気量が漸増漸減型(crescendo-decrescendoパターン)で,徐々に増減するといった特徴的な波形を示すため,前者との鑑別は容易である. 関連語→チェーンストークス呼吸
中枢性睡眠時無呼吸症候群 ちゅうすうせいすいみんじむこきゅうしょうこうぐん cental sleep apnea syndrome:CSAS おもに中枢型無呼吸(CSA)による呼吸障害で,睡眠中に呼吸運動の停止あるいは減弱が生じ,通常,酸素飽和度の低下を伴う.中途覚醒が主体の不眠を訴えることが多く,日中に強い眠気を生じることがある.CSASは覚醒時のCO▼2▼濃度により,2群(高炭酸ガス性と非高炭酸ガス性)に大別される.高炭酸ガス性CSASは,脳幹部の疾患などにより中枢性呼吸出力が低下することや,呼吸関連神経や呼吸筋を障害する疾患で生じる.非高炭酸ガス性CSASは,チェーンストークス呼吸や特発性中枢性無呼吸によって生じる. 関連語→チェーンストークス呼吸
中途覚醒 ちゅうとかくせい sleep maintenance insomnia いったん入眠した後,翌朝起床するまでの間に何度も目が覚める状態をいう.中途覚醒が頻回だと熟眠感が得られず,身体や精神活動に悪影響を及ぼし,日中の眠気を生じる.原因は,アルコール摂取,夜間の頻尿,睡眠時無呼吸症候群,周期性四肢運動障害,むずむず脚症候群,睡眠時随伴症,痛みや痒みを伴う身体疾患やうつ病などの精神疾患などである.尿意で目が覚める場合は,前立腺肥大や尿路感染症などの泌尿器科疾患や利尿剤の使用が,夢で目が覚める場合は,睡眠時無呼吸症候群やレム睡眠行動障害が,足のぴくつきで目が覚める場合は,周期性四肢運動障害が原因として考えられる.  
低位舌 ていいぜつ low positioned tongue:LPT 睡眠歯科学における定義は,舌造影を施した側方セファログラム上で,舌背が口蓋から離れている状態をいう.上顎骨や上顎歯列の狭窄で口蓋部に十分な舌房を物理的に確保できない場合,舌小帯の強直などで舌の可動性が制限されている場合,舌や喉頭の下垂で舌背と口蓋との距離が増加している場合,習癖にて機能的に舌を低位に維持している場合がある.この低位舌があると,口腔装置による気道拡大が不十分となって効果が減弱するという報告がある.  
低呼吸の判定 ていこきゅうのはんてい criteria of hypopnea AASMが2007年に提唱したスコアリングルール(AASMマニュアル2007)によると,低呼吸の判定には,推奨のものと代替のものの2種類の基準がある.前者は,鼻圧センサー(あるいは他の代替低呼吸センサー)の振幅が基準の30%以上低下,低下の時間が最低10秒以上,イベント前の酸素飽和度から4%以上の低下,イベント時間中,最低90%以上は低呼吸の振幅低下基準を満たすものである.後者は,鼻圧センサー(あるいは他の代替低呼吸センサー)の振幅が基準の50%以上低下,低下の時間が最低10秒以上,イベント前の酸素飽和度から3%以上の低下,あるいは(微小)覚醒を伴い,かつイベント時間中,最低90%以上は低呼吸の振幅低下基準を満たすものである. 関連語→無呼吸の判定
低呼吸の判定基準 ていこきゅうのはんていきじゅん scoring criteria of hypopnea 無呼吸のような完全な呼吸停止ではなく,換気量は低下するが呼吸は残る呼吸障害である.睡眠呼吸障害の重症度を示す無呼吸低呼吸指数(apnea-hypopnea index:AHI)では,無呼吸と同等に扱われる.その判定基準はPSGの診断基準によって異なり,1999年のAASMの判定マニュアルでは呼吸振幅50%以上の減少,または振幅の減少に加え3%以上の動脈血酸素飽和度の低下か覚醒を伴うものとされたが,過大診断の非難があって改訂された.2007年のAASMの判定マニュアルでは呼吸振幅30%以上の減少が10秒以上,かつ4%以上の動脈血酸素飽和度の低下(推奨)と呼吸振幅50%以上の減少が10秒以上,かつ3%以上の動脈血酸素飽和度の低下か覚醒を伴うもの(代替)とされた.最近,2007年ver.2という基準が提案され,この基準によるAHIの数値は推奨基準の3倍にも達する.  
同調 どうちょう entrainment 生体リズム(体内時計)の刻むリズムは,1日約25時間の周期であるが,地球の自転による昼夜のリズムは1日24時間であるため,毎日このずれを修正する必要がある.このずれの修正を同調(entrainment)という.同調に必要なさまざまな刺激を,同調因子という.同調因子には,食事や運動,仕事や学校などの社会的因子もあげられているが,最も強い同調因子は光刺激である.室内でも明るく感じることがあるが,実際には晴れた日の屋外(約1万ルクス)の1/20から1/10の光量しかないため,屋外の太陽光が最も効果的である.ただし光刺激を受ける側の生体リズムの位相によって,より脱同調に向かうこともあるので注意が必要である. 関連語→脱同調,位相反応
頭頂部鋭波 とうちょうぶえいは vertex sharp wave 瘤波ともいわれ,中心・頭頂部脳波(C▼3▼,C▼4▼)で75μV以上の振幅をもつ5Hz以上で14Hz以下の先鋭な波形である.入眠から睡眠段階1(N1)まで観察される. 関連語→睡眠段階
特発性過眠症 とくはつせいかみんしょう ideopatic hypersomnia ナルコレプシーと同様に昼間の眠気と居眠りがあるが,眠気の程度は弱く,睡眠発作が生じることは少ない.ナルコレプシーと異なり,いったん眠り込むと目覚めるまでに1時間以上(3〜4時間のこともある)を要し,目覚めの際には爽快感を欠く.目覚めること自体が困難で,無理に覚醒させようとすると,見当識障害(錯乱性覚醒)を呈する.脱力発作はないが,睡眠麻痺と入眠時幻覚はみられることがある.夜間の睡眠が10時間以上の長時間睡眠を伴うタイプと,伴わないタイプがある.若年で発症し,ナルコレプシーや睡眠時無呼吸症候群が否定されたときに本症を疑う.  
な行
ナルコレプシー なるこれぷしー narcolepsy 耐えがたい眠気が日中に突然出現する疾患で,寝入りばなの幻覚(入眠時幻覚),夜中の金縛り(睡眠麻痺),悪夢,寝言を伴うことがある.日中の眠気により,10〜20分継続する居眠り(睡眠発作)を繰り返す.また発作性に起こる全身または部分的な筋緊張の低下を引き起こす情動脱力発作(cataplexy)を生じる.睡眠発作と情動脱力発作の存在が確認されれば,臨床的にナルコレプシーと診断できるが,その症状がなくても睡眠脳波で入眠直後にレム睡眠(sleep onset REM period:SOREMp)が現れるとナルコレプシーを疑うことができる.補助的な検査として,脳脊髄液のオレキシン濃度やHLA(ヒト白血球抗原)のタイピングやMSLT(multiple sleep latency test)を行う. 関連語→睡眠麻痺,情動脱力発作
軟口蓋形成術 なんこうがいけいせいじゅつ palatoplasty 睡眠呼吸障害の治療手段で,第二世代の手術方法である.口蓋垂と軟口蓋の形成術(口蓋垂軟口蓋形成術),扁桃摘出も同時に行う口蓋垂と軟口蓋と咽頭の形成術(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)がある.これらは全身麻酔下で行うが,局所麻酔下で行うレーザーメスを用いた口蓋垂軟口蓋形成術(laser assisted uvulopalatoplasty:LAUP)も含めて,いびきの手術として1987年より歯科健康保険の適用が認められている. 関連語→口蓋垂軟口蓋形成術,
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術
日中傾眠 にっちゅうけいみん excessive daytime sleepiness:EDS 日中の過度の眠気は,睡眠障害に伴う主要な症状である.夜にあまりよく眠れていなくて,昼間に眠気が強くなる場合もあれば,きちんと夜に眠れているのに,昼間に眠気を感じる場合もある.睡眠時間が確保されているか確認し,ナルコレプシー,睡眠時無呼吸症候群,周期性四肢運動障害などの睡眠障害を睡眠医学的手段で鑑別をしながら,自記式のエプワース眠気尺度(Epworth sleepiness scale:ESS)で主観的眠気を評価したり,睡眠潜時反復測定検査(MSLT)や覚醒維持検査(MWT)にて客観的眠気を評価したりする.また生体リズムの内的脱同調による覚醒維持機能障害が疑われる場合は,補助診断として生体リズムの測定を行うこともある.  
入眠時幻覚 にゅうみんじげんかく hypnagogic hallucination 就寝後まもなく,自覚的には目覚めていると思っているときに,鮮明な現実感のある幻覚を体験する現象である.怪しい人影や化け物などが寝室に侵入してきて,危害を加えようとするような恐ろしい幻覚であることが多い.ナルコレプシーの4徴の一つで,睡眠麻痺と同時に生じることが多い.この症状の発現には,レム睡眠の機序が関与していることから,レム睡眠関連症状という. 関連語→睡眠麻痺,
ナルコレプシー
入眠障害 にゅうみんしょうがい sleep onset insomnia 就床後に入眠するまでの時間が延長して寝付きが悪くなる障害で,不眠の型のなかでは最も多い.入眠に30分から1時間を要し,患者が苦痛と感じている場合に入眠障害と判定する.寝室に騒音環境がある時,身体的には搔痒感や痛みがある時,精神的には不安や緊張感が強く気分の変調がある時に起こりやすい.悩み事を考えて寝付けない場合は,情動系の興奮が高まって頭がさえた状態となり,覚醒から睡眠への移行が悪くなる.悩み事がが解消されても,また入眠できなくなるのではないかと恐怖感をもつようになり,それがあらたな精神的ストレスとなって入眠障害が継続してしまうことがある.また遅い時間にならないと寝付けない場合は,睡眠相後退症候群で生体リズム(体内時計)が遅れているために通常の時刻に入眠を試みても入眠できないだけで,時間を待てば正常に入眠できる.  
寝言 ねごと sleep talking,somniloquy 睡眠中に本人が自覚しないまま言語や意味のある音を発する現象である.生理的寝言は,短く,小声,非感情的である.それに対し心的外傷後ストレス障害(PTSD)や睡眠時驚愕症では,悪夢を伴って助けを求めるような叫びや悲鳴のように感情的なものが多く,意味のある言葉は少ない.睡眠呼吸障害に伴うものは,呼吸が再開する際に,あえぎ,うめき声,ブツブツと言葉にならないようなことを言い,感情表出が少ない.レム睡眠行動障害では,抗争的な夢の内容に一致した激しい寝言,叫び声や異常行動が伴うことがある. 関連語→レム睡眠行動障害
は行
非24時間睡眠覚醒症候群 ひ24じかんすいみんかくせいしょうこうぐん non-24-hour sleep-wake syndrome 入眠と覚醒の時刻が毎日約1時間ずつ遅れていくために,夜に睡眠がみられる時期と昼間に睡眠がみられる時期が少しずつずれながら,約2〜4週間ごとに入れ替わっていく睡眠障害である.このような典型例では,社会生活が全く営めなくなり、無理に適応しようとすると,昼間に睡眠時間帯があたった時期には耐えがたい眠気をきたし,夜に睡眠時間帯がきた時期には,日中の眠気がなくなるパターンを示す.睡眠障害国際分類第2版(ICSD-Ⅱ)では概日リズム睡眠障害自由継族型(circadian rhythm sleep disorder,free running type(nonentrained type))に分類されている.  
PSG判定マニュアル ぴーえすじーはんていまにゅある manual for the scoring of sleep and associated events 1968年にRechtschaffenとKalesが確立した睡眠脳波の測定法と判定法を基本に,1999年にAASM(米国睡眠医学会)がPSGの診断基準(シカゴ基準)として定めた.この診断方法は長く支持されたが,睡眠呼吸障害の診断に用いる無呼吸低呼吸指数(Apnea-Hypopnea Index:AHI)に関し,実際よりも過大診断ではないかとの批判が沸き上がり,AASMは2007年に大規模な改訂を行った.2007年基準により,AHIはA基準(推奨)とB基準(代替)に分けられ,前者は臨床に後者は研究に適している.その後,一部の臨床家の強い要望でver.2というあらたな診断基準が提案されている. 関連語→無呼吸低呼吸指数,
低呼吸の判定
PLM指数 ぴーえるえむしすう PLM index PSGで観察される周期性四肢運動(PLMs)の1時間あたりの回数で,5/時間以上で周期性四肢運動障害と診断される.多くは浅いノンレム睡眠で観察されるが,深いノンレム睡眠でも覚醒時にも観察されることがある.レム睡眠中に観察されることはほとんどなく,もし観察された場合はレム睡眠行動障害を疑う. 関連語→周期性四肢運動障害,
レム睡眠行動障害
微小覚醒反応 びしょうかくせいはんのう arousal event 睡眠段階に影響しない程度の短い覚醒で,正常な加齢現象でもある.また睡眠呼吸障害,周期性四肢運動障害,およびその他の睡眠障害でも高頻度に生じる.全睡眠時間の減少や睡眠効率の低下を認めないにもかかわらず,この増加のみでも日中の眠気と関連することが報告されている.定義(判定基準)は,3秒以上の急激な周波数変化とされ,1時間あたりの発生数(覚醒指数arousal index)で量を評価する.  
ピッツバーグ睡眠質問票 ぴっつばーぐすいみんしつもんひょう Pittsburgh sleep quality index:PSQI 睡眠とその質を評価するために開発された自記式質問票である.18個の質問項目は,睡眠の質,睡眠時間,入眠時刻,睡眠効率,睡眠困難,眠剤使用,日中の眠気などによる日常生活への障害に関する7つの要素から構成される.各構成要素の得点(0〜3点)を加算して,総合得点(PSQIG,0〜21点)が算出される.得点が高いほど,睡眠が障害されていると判定する.  
肥満低換気症候群 ひまんていかんきしょうこうぐん obesity hypoventilation syndrome:OHS 高度の肥満(BMI>30kg/m▲2▲)で,日中の傾眠を認め,慢性の高二酸化炭素血症(PaCO▲2▲>45mmHg)で,睡眠呼吸障害が重症なものと定義されている.睡眠障害国際分類第2版(ICSD-Ⅱ)では神経疾患および胸壁疾患に基づく睡眠関連低換気/低酸素血症症候群に含まれており,必ずしも睡眠呼吸障害の有無は問われていない.かつてはPickwick症候群とよばれていた.  
不眠症 ふみんしょう insomnia 毎晩の実際の睡眠時間の長短にかかわらず,患者自身が睡眠に対する不足感を訴え,身体的,精神的,社会的に支障がある状態をいう.不眠の訴えには,入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒,熟眠障害を示すものが認められる.睡眠障害国際分類第2版(ICSD-Ⅱ)では眠る時間や機会が適当であるにもかかわらず,こうした障害が発生し,その結果なんらかの日中の機能障害(倦怠感や不定愁訴,集中力・注意・記憶の障害,社会的機能の低下,気分障害や焦燥感,日中の眠気,動機・意欲の低下,仕事中のミスや事故,睡眠不足に伴う過緊張・頭痛・消化器症状,睡眠に関する不安)がもたらされることを,不眠症と定義している. 関連語→不眠症の分類
不眠症の分類 ふみんしょうのぶんるい classification of insomnia 不眠には数日間程度の一過性不眠,1〜3週間程度の短期不眠,1カ月以上の長期不眠がある.一過性不眠の原因は,不安,痛み,外科手術前,時差ボケなどの急性のストレスによるもの,短期間不眠の原因は仕事や家庭生活上のストレスや重大な病気などの,より長期間の状況性ストレスによるものが多い.長期間不眠の原因はより複雑で,性格要因が関与する神経症性不眠,基盤に精神疾患や身体疾患を有するもの,アルコールなどの薬物の影響,高齢者特有の不眠,概日リズム睡眠障害によるものなどがある.睡眠障害国際分類第2版(ICSD-Ⅱ)はさらに,精神生理性不眠,逆説性不眠,特発性不眠も分類している.  
閉塞型無呼吸 へいそくがたむこきゅう obstructive sleep apnea 無呼吸は,温度センサー(鼻圧センサーではない)の最大振幅が基準値の90%以上の低下,イベントの持続時間が最低10秒以上,イベントの最低90%以上が無呼吸の振幅基準を満たすこと(無呼吸の検出には酸素飽和度低下の基準は必要としない)で判定する.この無呼吸の基準に合致し,気流のない時間すべてに持続性あるいは増加した吸気努力を伴っている場合を閉塞型無呼吸という.無呼吸の基準に合致しても気流のない時間すべてに吸気努力が消失している場合は中枢型無呼吸,イベントの初期に吸気努力が消失し,その後に吸気努力の再開すれば混合型無呼吸と判定する. 関連語→無呼吸の判定,
低呼吸の判定
閉塞性睡眠時無呼吸症候群 へいそくせいすいみんじむこきゅうしょうこうぐん obstructive sleep apnea syndrome:OSAS 睡眠中に出現する上気道の狭窄や閉塞で,これが10秒以上持続したときに無呼吸と定義される.ヒトは通常,仰臥位で就寝するが,このとき重力の影響を受けて,口蓋垂や舌根が沈下するため上気道は狭小化する.睡眠状態では上気道を構成している筋肉(頤舌筋など)が活動性を失い弛緩するため,上気道はさらに狭小化する.上気道に形態や機能の異常のない健康者では,この程度の上気道の狭小化は呼吸に大きな影響を及ぼさない.OSAS患者は,上気道の形態的あるいは機能的な異常により,睡眠中に容易に上気道が狭窄・閉塞し,無呼吸が出現する.閉塞型無呼吸に特有ないびきは,狭窄した上気道を通過するときの呼吸音である. 関連語→睡眠時無呼吸症候群
ま行
無呼吸低呼吸指数 むこきゅうていこきゅうしすう apnea-hypopnea index:AHI 1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数の合計である.無呼吸(apnea)や低呼吸(hypopnea)などの呼吸イベントの判定基準については,ここ10年間に3回の変更があった.最初の基準は1999年に発表されたAASMのシカゴクライテリア,次の改訂はメディケアクライテリア,最新の改訂はAASMが2007年に提唱したスコアリングルールに付随した基準である.この指数は,脳波を測定しない簡易検査と脳波を測定する睡眠ポリグラフとでは異なる. 関連語→無呼吸の判定,
低呼吸の判定
無呼吸の判定 むこきゅうのはんてい criteria of apnea AASMが2007年に提唱したスコアリングルール(AASMマニュアル2007)によると,温度センサーの最大振幅が基準値の90%以上の低下,持続時間が最低10秒以上,イベントの最低90%以上が無呼吸の振幅基準を満たすことで判定する.閉塞型は,気流のない時間すべてに持続性あるいは増加した吸気努力を伴っている場合,中枢型は,気流のない時間すべてに吸気努力の消失を伴っている場合,混合型は,イベントの初期に吸気努力の消失を伴い,その後に吸気努力の再開が伴っている場合を判定する. 関連語→低呼吸の判定
むずむず脚症候群 むずむずあししょうこうぐん restless legs syndrome:RLS 脚部に痛み,不快感,虫がはう感じ,むずむす感,かゆいといった多様な異常感覚が生じて,脚を動かしたいという強い欲求により入眠が障害される症侯群をいう.夜間の覚醒時にも生じるため,再入眠も障害する.比較的多い疾患で,有病率は1〜3%と報告されている. 関連語→睡眠関連運動障害
メラトニン めらとにん melatonin 松果体から分泌されるホルモンで,脳の睡眠中枢に作用して睡眠を引き起こす.メラトニンの産出は夕方から夜間にかけて増加し,深夜に最も高値を示し,朝になると産出されなくなる.この性質を利用して,深部体温リズムと同様に,生体リズムの生理的指標として用いられている. 関連語→生体リズム,深部体温
や行
夜間せん妄 やかんせんもう nocturnal delirium せん妄とは,身体状況の悪化などにより,覚醒維持機構が機能不全を起こした状態をいう.視覚などの感覚入力をゆがんで認知する一方で,感情,食欲,性欲などをつかさどる大脳辺縁系は過剰に活動し,幻覚・妄想,問題行動が引き起こされる.症状は夜間に出現したり悪化したりすることが多いため,夜間せん妄といわれる.誘因は,脳器質性疾患,常用薬の薬剤,臓器不全,手術,高熱などである.問題行動に対して投与した覚醒維持機構の働きを障害するため,せん妄がさらに遷延化することがある.  
夜泣き よなき night crying 生後4カ月までの乳児は,生体リズム(体内時計)の発達が十分でないため,昼夜の区別がつかなくて夜泣きをすることがある.夜眠り昼に活動するリズムが確立した後でも,決まった時間に夜泣きをする場合がある.これは小児は成人よりも短時間のサイクルで眠りが浅くなり,それに伴った体動にすぎない.にもかかわらず,過剰に反応して抱き上げや授乳を行うと,夜の覚醒が習慣として固定してしまう.また夜に哺乳することが習慣になると,生体リズム(体内時計)がこの時間帯を昼間と誤認してしまい,夜泣きを固定させることがあるので,就寝前に授乳するようにする.昼間の運動量を増やすと,夜の睡眠が深くなり中途覚醒が減る.  
ら行
律動性咀嚼筋活動 りつどうせいそしゃくきんかつどう rhythmic masticatory muscle activity:RMMA 睡眠中にみられる咀嚼筋の短時間に繰り返し起こる相動性の収縮で,睡眠関連ブラキシズム患者で多く観察される.この活動を顎下筋電図(開口筋)と咬筋筋電図(閉口筋)とを合わせて観察すると,顎下筋電図と咬筋筋電図が同時に活動(co-activation)することから,それぞれが交互に放電するブラキシズムというよりも,嚥下運動(ほとんどが未遂)に類似するものと考えられている.  
レビー小体型認知症 れびーしょうたいがたにんちしょう dementia with Lewy bodies:DLB アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症と並ぶ三大認知症の一つで,認知障害のほか,パーキンソン病のような運動障害も併発する.特徴的な症状として,注意や覚醒レベルの顕著な変動,具体的で詳細な内容の幻視と幻覚,パーキンソニズム(手足の安静時の震え,歩行障害,筋固縮など)を認めることがある.この疾患は,パーキンソン病や多系統萎縮症などとともにαシヌクレイン脳症とよばれる. 関連語→レム睡眠行動障害,
シヌクレイン脳症
レム睡眠行動障害 れむすいみんこうどうしょうがい REM sleep behavior disorder:RBD レム睡眠中の骨格筋の抑制機構が働かなくなり,夢のなかでの行動が,そのまま異常行動となって現れる疾患である.夢の内容は,口論・けんか・追いかけられるなどの暴力抗争的なものであることが多い.夢の内容に一致して,睡眠関連ブラキシズム,激しい寝言,叫び声をあげたり,徘徊したり,隣で寝ている配偶者を殴ったり蹴ったりの暴力行為,さらにタンスや柱にぶつかって本人自身が外傷を伴うことも多い.エピソード中に覚醒させることは容易であり,覚醒直後より意思の疎通性は良好で,異常行動の内容と一致した夢内容を想起できる.この疾患はαシヌクレイン脳症との関連が深く,長い経過の後で,パーキンソン病,レビー小体型認知症,多系統萎縮症を発症することが報告されている.診断はPSGにてレム睡眠中の筋緊張の残存(筋脱力のないレム睡眠:RWA)を確認する. 関連語→筋脱力のないレム睡眠

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